イラン シーラーズ② 『造花屋 モハンマドの物置』

2013.1.22

夜、シーラーズのまちを歩いていると、道路に面した花屋の男性に「どっから来たんだい?」と英語で声をかけられた。
イランに入国して三日目。
初めて地元の人から英語で話しかけられ、意表を突かれた僕は足を止めた。
「英語を話すんですか?」
男性は「タイによく行くからね。(店に並んでいる)花もタイで仕入れているんだよ」と教えてくれた。
よく見ると店に並んでいる花はどれも造花だった。
モハンマドという名のその男性は、毎年行くというタイでの様子を話してくれた。
家族で行くのかと思って聞いていたら、一緒に行くのは専ら男友だちとのこと。
(彼以外の家族は外国に行きたがらないらしい。)
彼はまるで今タイに居るかのように楽しげに語した。
僕もタイに三度行ったことがあったので、地元の人だと思われたり、一緒に行った友人ばかりがモテたりしたけど、タイ好きであることを伝えた。
タイへの愛を互いにひとしきり語り合うと、彼はどこに泊まっているのかと僕に訊ね、
「空いている部屋があるから良かったら使うかい?」と言ってくれた。
「タダデ」  「トマラセテ」  「クレル」
「汚いんだけどね」と言う彼に、「そんなことは構いません!明日また来ます!」と伝え、 その日は宿に帰った。

翌日。

お昼頃に彼の店を訪ね、本当に泊めてもらえるのかと改めて訊いてみた。
「もちろんOKだよ」と彼。
既に宿をチェックアウトし、大きな荷物を背負っていた僕は安堵した。
隣で布巾や下着を売る五十歳くらいの小物売りおじさんが、泊まらせてくれるというその部屋へ案内してくれることになった。
モハンマドとこのおじさんは一緒に暮らしているのかな?と思いながらついていく。
モハンマドの店から道路を渡った反対側、おじさんが指したのは同じ道路に面した二階建ての建物だった。
大きな象のオブジェが宙に浮くようにあつらえてある。
建物の一階部分は全面がシャッターになっていて、すべて閉まっている。
建物全体が疲れた様相で、象もどこか物憂げな表情を浮かべている(ように見える)。
シャッターに沿うように左に進み、おじさんは黄色い鉄の扉の鍵を開けた。

おじさんに続いて中に入ってみる。ん?
入ってすぐのところにあった階段を昇り、二階に上がる。
ちょっと待ってよ
階段を上り、すぐ左手にある部屋に案内される。
もしや、ここは
約六畳の部屋に年季の入った絨毯が敷かれ、電化製品やら造花が置かれている。
物置だ。

建物の様子からして、ここは建物ごと物置として使われているらしかった。
イランのご家庭に潜り込み、お言葉に甘えながらイランの方々の生活を覗き見る気でいた僕は落胆した。
象のようになった僕に、おじさんは建物内を案内しながら使用上の注意を親切に説明してくれた。

①便所と水道は使える。(但し、お湯は出ない。)
②シャワーは使えない。(だって、お湯も出ない。)
③ストーブは使える。
④入口の鍵は造花屋のモハンマドかおじさんが朝になったら開けに来てくれる。僕が部屋を出たら朝から営業を終える夜九時までは施錠し、途中帰宅は不可。営業終了後に再び鍵を開けてもらい、外から施錠。そしてまた、翌朝鍵を開けてもらう。

ふむふむと頷きながら、④について「それは軟禁ではないのか?」「途中帰宅出来ないって、すごい不便じゃない?」と思ったものの、泊めてもらうのも一日か二日、それにこれもまた一興と考えを改め、「ありがとうございます!」とおじさんに親指を立てた


(『イラン シーラーズ 古代宮殿遺跡 ペルセポリス』につづく)





小物売りおじさんが案内してくれた部屋は物置。
「なるほど、ここなんですね…」という背中と「ここなんだが」という背中。

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