インド プシュカル 『 4つの優しい石』

2012年 12月24日 

バスがプシュカルのまち外れにあるバス発着所の広場に着いたのは二十時を過ぎた頃で、
外は既に暗くなっていた。
バスを降りた僕はまず宿を探さなければならなかった。
「こんな暗いなか?こんな大きな荷物を背負って?」
山賊に遭う画をしっかりと浮かべてしまった僕は、動き始めるのを躊躇った。
少しは到着時間を考えて動くべきだったなと、相変わらず計画性のない自分に呆れながら、
「そういうところが好きって言ってくれる女の子に早く出会えますように」と、いつも通りの着地。

どうしようかなと改めて考え直していると、広場の向こうの方に工事中の建物と小屋が見えた。
出入りしている人の姿も見える。
「あの人たちはあそこで働いて、あの小屋に寝泊まりしているのかな?だとすると、夜も人が居て
つまり安全ではないか!」と一人合点し、彼らのもとへ向かった。

「こんにちは!」
努めて元気な挨拶をし、身振りと適当な単語に加えて「どうすかね?」顔を作り、
テントを立ててもいいか訊いてみると、彼らは好意的な様子で許してくれた。
さっそく工事中の建物の真ん前に組み立て始めると、最初興味深げにその様子を見ていた彼らは
手を貸してくれた。
「何だこれは?どうなってるんだ?」という様子の彼らと一緒に、笑いながらテントを立てた。

寝場所を確保できた僕は、近くで売っていたサモサを買って夕食を済ませ、
その後チャイ(インド風 ミルクティー)をちびちびやりながら、小屋の外灯からうっすら届く光を頼りに
本を読んだ。

本を読み始めてしばらくすると、彼らの夕食が始まった。
各々がバラバラの高さの石に腰掛け焚き火を囲い、鍋からよそったカレーを食べている。
「良い画だなぁ」と、傍目で見ながら読書を続けていると、テントを立てるのを手伝ってくれたおじさんの
一人が手招きしてくれた。

 「まさか?」

サモサで済むわけのなかった僕の腹は、正直に期待した。
半ば願いながらおじさんに寄っていったところ、おじさんは願い通りカレーをよそい、
僕に手渡してくれた。
「願ったりカレーだったり」という言葉は、こういった状況で生まれたのだなと確信した。

分けてもらったカレーは
“つかみどころがあるようでない、でありながらも辛いことははっきりしている”という、
変わった主張の味だったものの、彼らと並んで食べるごはんは特別おいしかった。

幸せな気持ちでテントに戻り、少しだけ本の続きを読んでから寝袋に包まった。

しばらくして、眠りに就くかどうかのときに、テントのまわりに人の気配を感じた。
しかし、襲ってきたのは眠気の方で、そのまま眠ってしまった。

翌朝、肌寒さを感じながらテントを出てみると、テントの周りに工事用のブロック石が置かれていた。
「なんだこりゃ?」
 寝ぼけたままの頭で考えた。
「まさか?」
既に起きていた彼らに訊かなかったので確かではないけれど、
 テントの周り四辺にある石は、僕のテントを守るように置かれていた。
そうだ。たぶん、これは優しい石。

寝起きで嬉しい出来事に恵まれた僕の頭のなかにオリジナルの歌詞付きのメロディが流れる。
「インド人がサンタクロ~ス♪ ほんとうは・・・」

 ゴロだけが気持ちの悪いことになってしまった。


                                          優しい石に囲まれておやすみ